家財

家を明け渡すに当たり、家財を始末しなければならない。空き家となって20年近くが経つ家である。折々、少しずつ持ち出してはいたが、とても追いつくものではない。そもそも、「これは使えそうだ」と思って持ち帰るのは、ため込まれた粗品のタオルやビニール袋だったりするのが、ケチくさいことこの上ない。自分のスケールを再確認する格好の一例である。

家族親戚一同は、何でも持って行ってくれと言う。自分が持ち帰っても置き場所も使い道もすぐにはないが、十把一絡げに廃棄物扱いにされるのも、心のどこかに引っかかるものがあるのだろうか。私は引っかかる。

祖母の存命中から、いずれは貰い受けたいと思っていたものが2点ある。扇風機とアイロンである。どちらも昭和30年頃のものだと思われ、3枚羽の扇風機にはタイマーが無く、やたらと重い鉄製のアイロンには温度調整が無い。しかし、作りが単純な分、故障も少なく長持ちするはずだ。

記憶の中で、扇風機には玉ねぎのネットが被せられていた。小さないとこたちが、指を突っ込まないようにするためだったろう。

そのいとこたちは、回る扇風機の前で「あーあーあーあー!」とやって、声が震えるのを楽しむのである。これをやるのは、十中八九男子だと断言できる。

 


この2点だけにしておけと、常識的な私が言う。しかし、もう1人の、付き合い慣れている後先考えない方の私が、アレはどうする?コレはいいのか?大型ゴミになってバリバリと噛み砕かれるんだぞと言う。捨てられないのは、脳の問題だという説に何一つ異議を唱える気もなく、私は運搬業者を手配した。

 


持ち出すのは、祖母が嫁入りの時に持って来た長持ちと、「昭和二十九年」とどこかに筆書で書き付けのあるタンスと決めた。どこに置く、何に使うという当てもないままに 。